東京高等裁判所 昭和57年(行コ)229号 判決 1984年6月28日
控訴人(原告) 浅田洋治
被控訴人(被告) 亀戸労働基準監督署長
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、控訴の趣旨として、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対してした昭和四九年六月一二日付の労働者災害補償保険法による休業補償給付をしない旨の処分を取消す。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示及び当審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、引用する。
(控訴人の主張)
労働者災害補償保険法上「業務上」の負傷とは、業務と合理的関係のある負傷をいい、業務と相当因果関係のある負傷よりもその範囲を広く解すべきである。けだし、相当因果関係説は、法定補償制度を一種の損害填補を目的とする制度と解し、損害賠償の法理において故意、過失と損害との間に相当因果関係を要するとの法理を法定補償の対象の確定に転用するものであるが、法定補償制度は損害の公平な分担を目定とするものではなく、労働者が人たるに値いする生活を営むための必要をみたすべき労働条件の確保をめざし、被災労働者とその家族の生活保障を目的とするものであつて、どのような法的要件をみたした場合にその制度の保護を受けるのかは、その法律制度の目的に照らして決定されるものであるところ、この見地にたつて考えると、通常の場合に生ずべき負傷だけを保護の対象とすることが最もよくその制度の目的に適するということはできないからである。従つてまた、仮に、「業務上」の負傷を業務と相当因果関係のある負傷と解するとしても、その相当因果関係(業務起因性)の内容は、損害賠償におけるそれとは異なるのであつて、結局、「業務上」であるか否かは、法定補償制度の目的に照らし、労働者保護の見地から法的救済を与えることに合理性があるか否かの実質的判断によつて決すべきものである。
そうすると、控訴人は会社側の制止を排除し、暴行を働いてまでタイムカードに打刻しようとしたのではなく、会社側の打刻制止行為に口頭で抗議していた際に会社警備員の暴行により負傷したのであるから、本件災害には業務起因性がある。
(被控訴人の答弁)
控訴人の右主張は争う。
理由
当裁判所も控訴人の本訴請求は失当と判断する。その理由は、次に附加、訂正するほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一二枚目裏末行「本人尋問の結果」の次に「(ただし、後記措信しない部分を除く。)」を附加する。
2 同一五枚目表六行目「体当りを加え、これを足蹴りするなど」を「体当りを加えるなど」と改める。
3 同一五枚目裏二行目末尾に「控訴人の原審及び当審における本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく措信することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。」を附加する。
4 同一六枚目表一〇行目の末尾に「このことは、仮に、控訴人が、その主張のとおり、会社側警備員に投げ飛ばされたために受傷したものとしても、変りがない。ただ、その場合には、当該警備員及び会社に対し損害賠償を求めうることがあるにとどまる。また、控訴人は、業務起因性の判断については、通常の相当因果関係よりも広く緩やかな基準が適用されるべきである旨主張するが、独自の見解にすぎなく、採用することができない。」を附加する。そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 田尾桃二 南新吾 根本眞)